永く世に残るほとんどのジャズがもつシャレた(そしてほんの少しいたずらな)フィーリング。
“Song For My Father”は、正しくそんなフィーリングをもつ曲でした。ギターかヴァイオリンを弾く彼の父を取り巻くファミリー弦楽奏セッションの中で育ったという、ホレス・シルヴァー。幼い頃の楽しくゆたかなその想い出と、1964年の同タイトルのアルバムのレコーディング中、ブラジルへツアーをした際の音楽的経験が重なって生まれた曲。
ボサノヴァとハード・バップ・ジャズの交わったファンキーなパフォーマンスは、いにしえの佳い想い出が(たとえほんとうはそんなものなどなかったとしても)心に火を点すかのような、ほっとするものでした。
しかもその幽玄の曲想は後続のミュージシャンの魂をつかんだのです。ジャズ・スタンダードとして伝わるほかに、スティーリー・ダン、スティーヴィー・ワンダー、アース・ウインド&ファイアー、そしてポール・ウェラーのスタイル・カウンシルに至るまで。むろん、私も……只管酔いしれるだけでしたが。
温もりのあるトーンが玄いリズムで躍る、いつまでも浸っていたくなるような、そんなピアノを弾く人でした。
R.I.P. Horace Ward Martin Tavares Silva <Horace Silver> (1928.9.2 Connecticut – 2014.6.18 New York)