セリーヌ・ディオンが曲をバクッたって……???
魑魅魍魎音楽界の出来事ならどんな妙な話を聴いてもまず驚かない私ですが、サスガにその時は耳を疑ってしまいました。
セリーヌがとてつもなく凄いシンガーだって事は普く知られています。けれど、詞を書いたり、曲をつくったりした事は、全くなくはないものの、ほとんどありません。なのに、なぜそういわれ、怒られたのか。
そもそもの発端は今春、彼女がゲストとして出演をした米国のTVトーク・ショウ“Katie”(2013.4.25オンエアー)。当然話は今年秋リリースとなるアルバム“Water And A Flame”のそれへと及んだのですが。ホストのケイティー・クーリックがアデルの話をふり、パッション、詞、トーン……そのすべてを愛していると言わせたのです。たぶんそのアルバムのタイトル・トラックを、アデル“も”唱っていると知り、新作話の山にしようとしたのでしょう。ふりのかえしから曲を流し、御本人のリップシンク、やがていっしょに唱ってくれるようなカットとなるのを企んでの事。まんまそうなりました。
しかしそれが、アクシデントのトリッガーを引いたのです。“Water And A Flame”のオリジナル・ヴァージョンをつくったのは、オーストラリア・メルボルンのブルー・アイド・ソウル系シンガー・ソングライター、ダニエル・メリウェザー。彼とフランシス・エグ・ホワイト(プロデュースも)の共作曲として彼本人が唱い、2009年、2ndアルバム“Love & War”の1曲として収められました。同年第4弾シングルとしてリリースもしています。そしてそのフィーチャリング・ヴォーカリストとして唱ったのがかのアデルだったのです。アルバム“Love & War”のプロデュースをつとめたのが、アデルの“19”も携わったマーク・ロンソン(当該曲そのものはホワイト)。しかもその“19”のシングルとしてビッグ・ヒットを果たしたグラミー獲得曲”Chasing Pavements”は、ホワイトの共作兼プロデュース曲だったという縁からみても、至極当然自然なコラボレイションでした。
とはいえくわしい話が一々語られるはずもなく。殆ど何も知らない人、つまりフツーの人が、無意識に聴いていたら、アデルの自作曲を唱ったのかと想ってもしかたない流れだったかと。オリジナルのシンガー・ソングライターとしてはそのへん許し難い事だったんでしょうね。何よりも彼の名を言わなかった事を怒り、それをフェイスブックで訴えたというしだい。まるでセリーヌ・ディオンが曲を奪い獲ったかのように。どうも、アデルの曲の如く想われるのを悔しいと想う余り、エスカレートしてしまったみたいですね。
むろん、そのようなニュアンスは感じられたにしろ、事実上、私が書いたものだとか、アデルのつくった曲だとか、そんな話は全く言っていなかったわけで(ソングライターの名を特に言わなかっただけ)。やぶからぼうにかみつかれて傷ついたのは、スーパースターのほう。んでもって、彼は後日謝る事に。なんともまァ、頓珍漢なアクシデントでした。
それはともあれ、スポットライトの当たったその曲自体は、なんとなくスティーヴィー・ワンダーに通じるというか、しんしんと降る雪の様なソウルバラッド。男と女の擦れ違う様をアデルと共に唱い合う……つまり真に迫るメランコリックなロストラヴ・ソングで、心の襞に染みいります。セリーヌ・ディオンのカヴァーもまたしかり。
Water And A Flame | Daniel Merriweather featuring Adele (click! で、リンク)
