Eternal Songs Kaleidoscope 佳曲萬華鏡
Careful 10 : And I Am Telling You I’m Not Going / Jennifer Holliday
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2012年5月9日、“American Idol (season 11)”トップ4のコンテストで、それは顕になりました。一旦は票決で落選の危機に見舞われたものの、審査員の救済権行使でショウに留まった本格派少女ソウル・シンガー、ジェシカ・サンチェスが、正にその真の力を示しえたのです。
本格派と讃えられてもまだ16歳。歌はまずまずうまくとも、へたすればのど自慢的実力の域を出るかどうかのものともいえ。今季名パフォーマンスの一つとなっているホイットニー・ヒューストンの“I Will Always Love You”ですら、自らのものにしているとは評しがたいものでしたし。
歌をほんとうにものにするには、時の力も要ります。1週間の練習で仕上がるようなパフォーマンスは、やはりそれなりの出来映えでしかないわけで。必然性も無く真実味を醸し出すのはたやすい事ではありませんから。熟すまで時を置かねばなりません。ゆえにそもそも慣れ親しんだ曲を歌わせなければ、コンテストとして無意味じゃないかと感じていました。無理強いしてもいいものが得られる筈もなく……。
そんな我が意を得たりと思われたのが、トップ4の回。ズバリ「私の作ったものだったら良かったのにと思う曲を歌う」というのがテーマの一つだったからです。果たして、4人がピックアップしたそれらは、文字通り魂が宿っているかの如く感じられ、(最ものど自慢的な罠に嵌まっていたホリー・カヴァナーの歌でさえ)ストレートに心に響くパフォーマンスとなりました。
それまでは漠然と実力が空回りしているようにみえたジェシカも然り。似つかわしくない妙な振り付けもとりいれず、ただすっと光の下に立ち、想いをかみしめて歌うその姿が、輝きをもって浮び上がったのです。たしかにそれはスポットライトの中で佇むスターそのものでした。
そしてその時、歌われたのが、正に“And I Am Telling You I’m Not Going”だったのです。
<つづく>
