クロスオーヴァー・ジャズのたいせつな1ピースをまたひとつ亡くしました。
ラルフ・マクドナルド。去る12月18日(米時間)、癌の為、67歳でした。
1944年3月15日、米ニューヨーク・ハーレム生まれの、トリニダード・トバゴの血を引くジャズ・パーカッショニスト。17歳からおよそ10年、ハリー・ベラフォンテのバンドのパーカッショニスト(スティール・ドラム)として、父ゆずりとなるカリプソで鍛えられ、27歳でセッション・プレイヤーとして独り立ちしています。
私が、彼の名とその”音”に惹かれたのがその頃。’72年、ロバータ・フラックとダニー・ハサウェイがデュエットで歌い、ミリオンセラー・ヒットを果たした”Where Is The Love”で、でした。ソングライターとして彼のつくった曲が、温もりのあふれる珠玉作だったことはもとより言うまでもありません。ソウル・デュエットのマスターピースと讃えられもする程絶妙に交わったふたりの間でリズムを刻むパーカッションが快いアクセントとして、正しくぐっと曲を盛り上げていたのです。あたかもふたりの胸の内の昂まりをとらえているかのように。グラミー受賞作ともなったその曲で、彼の名も世に知られるようになりました。さらに’77年、映画絡みでとてつもないメガヒット作となるザ・ビー・ジーズの”Saturday Night Fever”で、彼自身、アルバム収録曲の1曲でソロ・アーティストとしてグラミー賞獲得。そして’80年(’81年にヒット)、彼のつくった曲で自らプレイもした、サクソフォニストのグローヴァー・ワシントン・Jr.(ヴォーカル : ビル・ウィザーズ)によるアダルト・アーバン・バラッド”Just The Two Of Us”で、再びグラミー賞の光が……と、旬の音を生みつづけました。
ジョージ・ベンソンの”Breezin'”を始め、彼と関わったアーティストは、キャロル・キング、アレサ・フランクリン、ダイアナ・ロス、デイヴィッド・ボウイ、ビリー・ジョエル、ミリアム・マケバ、ポール・サイモン、アート・ガーファンクル、ルーサー・ヴァンドロス、クインシー・ジョーンズ、ローランド・カーク、マックス・ローチ、ミルト・ジャクソン、ガトー・バルビエリ、ジョー・ヘンダーソン、メイナード・ファーガソン、ロン・カーター、ザ・クルセイダーズ、ボブ・ジェイムズ、デイヴィッド・サンボーン、ブレッカー・フラザーズ、スティーリー・ダン、エイミー・ワインハウス(カヴァー)、そして渡辺貞夫等、数に限り無し。
ラテンをベースとしながら、ジャズ・フュージョン、ソウル、ロックにいたるまで、彼の曲、そしてパーカッションがもたらしたものは小さくありません。ポップ・ロック・バンド、ルッキング・グラスのバックでさえその存在感は確かなものでした。
しかしもうあのハートビートは止まってしまいました……幸福感に包まれるあの響きがもはや聴けなくなる、そんな日が来るとは。
やすらかにお眠りください。
<彼の”Smoke Rings And Wine”(リーダー・アルバム”The Path”)、そしてグローヴァー・ワシントン・Jr. の”A Secret Place”でそのプレイを偲びつつ>