Record Makers’ Rhapsody
vol.6 ARISTA
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1983年の春の宵。ニューヨークのサパークラブ、スウィートウォーターズで歌う、ホイットニー・ヒューストン。当時未だ19歳。海のものとも山のものともつかないころですね。しかしそのパフォーマンスを一目見るなり、スターの兆を感じとったという男がいたのです。クライヴ・デイヴィス……アリスタ・レコードをつくったその人でした。
世に名伯楽といわれるプロデューサーは多し。しかし、音楽作りにおいてはヒットのポテンシャル、さらに製作費などの経済面も含め、一切合切面倒を見られる人はそんなにいません。かつて弁護士だった彼は、それができるプロデューサーの1人といえるでしょう。そんな彼がつくったアリスタは、よくもわるくも彼の音楽観が徹底的に映し出されたレーベルとなりました。やがて年50作前後のヒットを生み、レコード・レーベルの年間トップ10の常連にもなった同社。音楽業界出世物語の第1幕は、正にそのデイヴィスの社長解任劇からでした。
’73年の5月、彼はやぶから棒にCBS・コロンビアを辞めさせられます。かつてその社になじんでいなかった革命的なロックのセンスをとりいれ、ジャニス・ジョプリン、サイモン&ガーファンクル、シカゴ、ブルース・スプリングスティーンら数え切れないスターとサイン。旧態依然的な音楽作りのせいで行き詰まっていたコロンビアを業界一のレコード・メイカーとして立ち直らせた功労者が、横領等の疑いをかけられ、切られたのです。当然、理由は表向き。実はどんどん力をつけてきた彼を、親会社CBSの上層部が畏れ、追い払ったというわけ。出る杭は打たれる……か。
<つづく>
