Summer Holiday Special (!!!) : Penguin’s Album Reviews
21 Love Songs / Anne Sofie Von Otter, Brad Mehldau (2010)
アンネが自らカーネギー・ホールのショウで歌うピアノ曲をつくってくれるよう、ブラッドに頼んだのがそもそもの始まりだったとか。強くオーガニックなそのタッチを好み、愛していたそうです。
1970年8月23日ジャクソンヴィル生まれの米尖鋭ジャズ・ピアニスト、ブラッド・メルドーと、1955年5月9日ストックホルム生まれのスウェーデン人メゾソプラノ・オペラ・ソロイスト、アンネ・ゾフィー・フォン・オッターが、”愛”をテーマにつくった異色作”Love Songs”。
ロマンティックな米自由詩人E・E・カミングス、ひかえめで暗示的な英ムーヴメント派詩人フィリップ・ラーキン、ナチュラルな米女流詩人サラ・ティーズデールの詩を基にしたブラッドによるオリジナル7曲と、仏、米、英、スウェーデン等のポピュラー楽曲集13曲の二枚組、二部作としてまとめられています。
まずはその一枚目、第一部をなすのが、クラシカルなオリジナル・パート。
異なった音楽性のクロスオーヴァー、既存詩を音楽的に再構築、両サイドに立つオトコとオンナのコラボレイションという、決してたやすいとはいえない構造的難関をミゴトにくぐりぬけています。とはいえその交わりは、細やかなニュアンスまでとらえると、異和感を禁じえなくもあり。ゆえに一風変わったムードを醸し出してもいます。もちろんぎこちないわけではありません。それぞれが類い稀なテクニックをもち、イマジネイション豊かにあふれるアーティストですからね。かえってその異和感が、愛のもつ謎めいた力と織り重なって、幻想的なフィーリングを生み出しています。それはまるで天空高き山の頂で、月の光の下、うるわしき音の泉に浴しているかのよう。愛の真髄突く音世界にふんわり包みこまれます。
ついでその二枚目、第二部をなすのが、ジャズ・タッチで紡ぐポピュラー・ソング・パート。
異端前衛詩人レオ・フェレの十八番”Avec Le Temps”をかわきりに、バルバラの”Pierre”等2曲、そしてジャック・ブレルの”Chanson De Vieux Amants”等シャンソン系、さらにミシェル・ルグランによる”Chanson De Maxence”および”What Are You Doing The Rest Of Your Life?”という珠玉映画音楽を含む仏国生まれの名曲群が、全体的なトーンをかたちづくります。”The Sound Of Music”の”Something Good”、”Bagdad Café”の”Calling You”、”On The Town”の”Some Other Time”等、ミュージカル/映画関連曲でドラマ性を交え、ジョ二・ミッチェルの”Marcie”とビートルズの”Blackbird”というロック曲でヴァリエイションも。アンネならではのものとして、スウェーデンにおいてはモニカ・ゼッタールンドの歌でおなじみの曲を母国語で歌ったりもします。第一部に比べ、こちらはぐっと人間臭くなりますね。アンネにしてみればプロフェッショナルとして自ら慣れ親しんだフィールドでもないのに、むしろ生き生きとしたようすさえ窺えます。愛のかたちもいろいろ、熱く燃え盛るようなものから、時のうつろいと老いをあからさまにとらえる救いようのないものまで……。男と女の織り成す営みがさわやかに描かれています。
真髄突く第一部、人間臭い第二部。いずれもその息はしっくり合い、かたときも離れえません。それは、正に羽衣纏い、地に降りたるエンジェルとのひとときのダンスの様に。ふっと寄り添い、引いてはまたとらえ……。一音一音優美に紡がれるピアノと、ひらひらと宙を舞う蝶の如くたおやかなヴォーカルにより、しんなりとした美しさをもった愛の歌がしっとり綴られています。
