エイミー・ワインハウスとトニー・ベネット……
レコーディングの場でもなければ不釣合いなふたりのデュエットを映すヴィデオクリップが、9月14日、エイミーが28歳のバースデイを祝される筈だった日に全編初公開されましたね。3月23日、ロンドンのアビイ・ロード・スタジオでレコーディング&シューティング。和やかにくりひろげられ、心あたたまるそのようすは、それゆえに、こみあげるものがあります。
去る7月24日、前の日の死の報せにゆれながらブログを記してからもなお悼む想いはつのるばかりの私にとっては、待ち遠しくもあり、怖くもありました。死のありようからして、聴くにたえない出来映えかもしれないからです。トニーについても、レコーディング時84歳を数えるわけで、寂しさのようなものを感じさせられるかもしれない、という怖さがありました。未だ歳を感じさせないパワーをもつことを知ってはいても、中学生の時ソフィスティケイトされたその歌に魅せられ、以来虜になってしまった私からすれば、どうしても昔と比べてしまうでしょうし。がっかりさせられるくらいなら、いっそ聴かないほうがいい? とすら思ったりもしました。しかし、もしも聴いていなかったら、後に悔やんでいたでしょう。
それは……たとえようもなく、美しいものでした。
予想通り、トニーの歌い出しには少しはらはらさせられます。衰えをちらっと思わせる歌いよう。数年前、ライヴで歌ったときと比べても、弱い。それを彼一流のテクニックで踏みとどまって、かたわらへ渡します。
しかしその出だしをぎりぎり切りぬけたせつな、交わってきたエイミーの天衣無縫自然な歌で、澱みそうだった霧は瞬く間に吹き飛ばされ、晴れ渡ってしまいました。魂が引き合うかの如く、つかず離れずそっと寄り添い歌う、ふたり。そこにはふたりだけのインティメイトな場がかたちづくられます。それは、おじいちゃんと孫ムスメのほほえましい語らいでしょうか? それともいわゆる歳の差を感じさせないオトコとオンナの愛し合う姿でしょうか? はたまたたんに性齢等異質でそれぞれにスタイリッシュなヴォーカリスト達のケミストリーがなせるものってやつでしょうか?
違います。
ふたり佇むその間に隔たりが無くなったのです。くるり、包まれる感じ。それも、トニーの年の功で、ではありません。エイミーがシャボン玉のようにふわっとトニーの肩を抱き締め、そして包んでいったのです。すぐにふたりは一つになって、それは終わるまでずっと崩れませんでした。恋? それともまた違う、何か。いうなれば、心を許し合う堕天女と壮紳士の終わりのないチーク・ダンス。そんな”愛”がめばえたのが見てとれました。
Tony Bennett “Duets II”からの”Body And Soul”。これまでに聴いたいかなるデュエットの中でもとりわけ光る1曲になりました。
そして今、あらためて思います。やはりエイミーは”ジャズ”シンガーだった、と。
