Hit Chart Elegy – One Hit Wonders
I Was Kaiser Bill’s Batman / Whistling Jack Smith (1967)
ついでですから、口笛付ヒット・ソングからのスピンオフで、ウィッスリング・ジャック・スミスについてひもといてみましょう。
今もYouTubeを始め、いろいろなサイトで観られるTV番組録画映像で歌い、否、口笛吹き、否、踊り?……そして何よりもデビュー・アルバムのジャケットでほほえむそのミリタリー・ルックのオトコ、実は此の世にいません。
おおおっとーーー、時節外れであえてのホラーかァ!? じゃなくて、そもそもがアーティスト名自体架空のものなんですが、レコーディングで口笛吹いたのもそのオトコじゃないんですよね。
曲そのものをつくったのは、デイヴィッド&ジョナサンという名のヴォーカル・デュオも組み、自ら英・米でヒットをもつ、英ブリストルのソングライター&プロデューサー・チーム、ロジャー・クック&ロジャー・グリーナウェイ。ホリーズの “Long Cool Woman (In A Black Dress)”等多数のヒットを生み、かたわらでホワイト・プレインズなどのいわゆるスタジオ・グループ(レコーディング時適当に名づけられた嘘バンド)を当てまくったコンビですね。
そんな彼らがたまたまマイク・サムズ・シンガーズをフィーチャーし(歌っていませんが)、セッション・ミュージシャンを配してつくった”ジョーダン”曲だったものが、正にこの”I Was Kaiser Bill’s Batman”でした。
ところがこの曲、予想外にヒットしてしまったため、ライヴ・パフォーマンスもせざるをえなくなります(リップシンクではあっても)。で、幻の口笛吹きジャック・スミス役を演じてくれと頼まれたのが、ビリー・モウラーという、1946年2月2日、英リヴァプール生まれのオトコ。’65年の英No.1ヒット”Concrete And Clay”などで知られる英ポップ・ロック・バンド、ユニット4+2のトミー・モウラーの弟で、彼自身もコビー・ウェルズという名でレコーディングをしていたアクトでした。そして以後彼が、口笛男の”顔”として表舞台でもてはやされる(笑われる?)ことになります。
さてそれでは”ほんものの”口笛吹きはいったい誰だったのでしょうか? 実はこれもまァいろいろと取沙汰されているのですが(プロデューサーのノエル・ウォーカー説もあり)、レコーディング・セッション時にいたトランペッターのジョン・オニールだったというのが当たりのようです。ウィッスリングではおなじみのアーティスト。’66年につくられた伊映画”The Good, The Bad And The Ugly”のエンニオ・モリコーネ作によるサウンドトラック・メイン・テーマで口笛吹いていたのも彼であるといわれています(これもアレッサンドロ・アレッサンドローニ説があり)。同テーマも、”ウィッスリング”ヒットとして、’68年、サウンドトラック盤がゴールド・ディスクに。さらにヒューゴ・モンテネグロによるヴァージョンが、英・米でビッグ・ヒットを果たしました。ほかに英コメディー・ショウの大傑作”Monty Python’s Flying Circus”においてもまた軽妙な口笛を堪能することができます。
ちなみにその名は、’50年にはすでにもう亡くなっていた米ポピュラー・ヴォーカリスト”Whispering”Jack Smithをもじったものでした。
というわけで、”I Was Kaiser Bill’s Batman”は’67年、謎の口笛男によるノヴェルティ・ソング、珍奇冗談音楽として、故郷英国内でトップ5、米国内でトップ20にランクされるスマッシュ・ヒットをマークしています。
