Summer Holiday Special : Penguin’s Album Reviews
19 ZAZ / ZAZ (2010)
音楽と自由が仲良しなのはいうまでもありません。音楽人に自由人が多いのもまた永遠・不変の真理。とくに仏国人のミュージシャンは、御国柄ゆえか昔からそういった匂いをほとばしらせる人が多く見うけられます。
モンマルトルの歌姫として昨年、突如ブレイクアウトを果たした仏女性シンガー・ソングライター、ザーズもそう。1980年5月1日、フランス・トゥール生まれのイザベル・ジュフロワ。ニックネームがそのままステージネームになりました。これは’10年にリリースされたデビュー・アルバム。本国内でNo.1になったほか、ヨーロッパ中でヒットし、’10年に最も当たった仏国人アクトといわれています。
路ばたにひざを抱えてすわるジャケットの姿を見た時、無表情で横顔向けているから、一見暗い人なのかなと思ったんですよね。人のことなどおかまいなしに、しっとりと愛の歌を綴るみたいな。
しかし、トップにセットされた自作曲”Les Passants”を聴いたとたん、吹っ飛んでしまいました。さすがにずっとそこらで歌ってきたことから、たんにその場に居る佇まいが極自然になじんでいただけで、人見知りでもなければ、ネガティヴでもありません。むしろ、呼びかけたらすぐ笑いかけてくれるような優しさすらも感じられます。ただし歌っているのはそれほどおキラクな詞ではないんですけどね。
そして次の曲、リードシングルの”Je Veux”へ。得意技の”掌”ホーンのスキャットが決まったせつな、楽しげなようすに惹かれてしまったのです。知らずにカズーかなと思っていたので、後に掌を丸めるのみで何も使っていないと知り、驚かされましたが。「貧しくたっていいじゃない。愛さえあれば幸せ。人生楽しまなくっちゃ」そんな想いがすんなり伝わってきます。ちなみにこの曲をつくったプロデューサーの1人ケレディン・ソルタニこそがザーズを路ばたからひろいあげた人なのだとか。
オリジナル盤ラストにセットされた、今世紀フレンチ・ポップスのトップ・スターの1人、ラファエル・アロッシュが書き下ろした曲の一つ、めくるめく狂おしく閃く愛の歌”Éblouie Par La Nuit”で幕が引かれたその時にはもうとりこになっていました。
幼少時は音楽院でクラシックを学び、長じると共に、ブルーズ系グループ、ジャズ・アンサンブル、バスク系のダンス音楽集団等を経て、さらにラテン系のバンド、ドン・ディエゴを通じ、いろいろな音楽的素養をとりいれていったそうです。そのおかげで培われた音楽性は彩り豊かなものに。仏国産のネオソウル、またはジャジーなフレンチ・ポップスとでもいえるでしょうか。パリの路上繋がりでもある、エディット・ピアフの系統継ぐ(正にそのレパートリーの1曲で、ザーズにとっても十八番だった”Dans Ma Rue”が収められています)新感覚のシャンソンですが、センスそのものはジャズっぽく、フォーキッシュな面も感じられ……と、とらえどころのない不思議な音楽性がたまりません。なんといっても、姐御系でありながら、キュートなハスキー・ヴォイスがチャーミング。天真爛漫享楽的なムードがまわりを温かくつつみます。
