The ArchAndroid / Janelle Monáe

Summer Holiday Special : Penguin’s Album Reviews

18 The ArchAndroid / Janelle Monáe (2010)

あれっ、外しちゃったかなと思ったんですよね。買ってすぐに。大袈裟なコンセプトがじゃまして、歌のもたらす光にベールがかけられている感じだったので。だって、オーヴァーチュアですよ。で、組曲第2番と第3番ですと。前のEPが組曲第1番ふうに作られていましたから、あるかなあとは思っていましたが。まァ、処女作についてはその名を知らしめるという意味合いもあるので、凝ってはったりかますのはしかたがないとしても、次は真面目(?)につくってもらいたかったんですよ、歌を真ん中に据えたまともなヴォーカル集を。心をいれかえてね。けれど、またしても悪ふざけして。出来映えもあまり褒められたものではありませんでした。思っていたほどには……。

実は、かつてゲストでいろいろとフィーチャーされてもいたし、未発表作品で”素”に近いかたちで歌っているのも聴いていましたから、もっとその力だけで訴えかけてくれるようなもの凄いのを待ち望んでいたんですよね。しかし、ふたをあけてみたら、ヴォーカルよりもぶっとんだキャラクター、そしてコンセプトを重要視したものだったわけで。要するにその過度な期待を下回ったってだけ。で、がっかりしたと。

というわけで、そもそもの人間と禁断の恋愛をしてしまったアンドロイドのラヴストーリー的組曲からの発展的続編として、時は2719年、モネイの遺伝子からつくられたアンドロイド”大天使”シンディ・メイウェザーによる愛の逃避行と、悪の支配下にある幻想未来都市メトロポリスの市民解放物語などが絡められ、’07年のEP”Metropolis: Suite I (The Chase)”に次ぐものとして、’10年にリリースされたのが、正にこのメジャー・デビュー・アルバムとなる”The ArchAndroid”でした。

作るにあたって、アルフレッド・ヒッチコック、ドビュッシー、フィリップ・K・ディック等にインスパイアされたといわれますが、なんといってもそのルーツは、本人自らSF系映画の源という’27年のフリッツ・ラング監督無声映画”Metropolis”。頭にメトロポリスをかぶったアンドロイド姿のジャケットでばればれです。

アンドロイドの中のジャネル・モネイ・ロビンソンは、1985年12月1日、米カンサスシティ生まれのマルチ・アーティスト。アトランタへ移り、ビッグ・ボーイと知り合ったことから、’06年にアウトキャストのアルバム”Idlewild”の2曲でヴォーカルを始め、アレンジメント、あまつさえプロデュースも務め、スポットライトが当たりました。

スティーヴィー・ワンダーが、デイヴィッド・ボウイが、トム・トム・クラブが、プリンスが、キッド・クリオールが、ビートルズが、サイモン&ガーファンクルが、そしてアウトキャストまでも交わったクロスオーヴァーな音世界がかたづくられます。ほんものがそのまま乗り移っているかのように感じられることも。ソウル、ロック、ジャズ、シネマ・ミュージック、ポピュラー・スタンダード、フォークソング、アフロ……そこにはもうなんでもあります。中にはつぎはぎのように見えるものもありますが、それがまたおもしろかったり。ビッグ・ボーイを始め、米オルタナティヴ・ヒップ・ホップ系詩人ソウル・ウィリアムズ、そしてサイケデリック・ロック・バンドのオブ・モントリオール等のゲストもはまっています。

歌自体は正統派のそれですが、感覚的にはどちらかというと拘りなくぶっとんでいるといえるかも。アンドロイドらしく(^.^)結構何でもうまくこなしちゃうので、あちこちさわりをかじってみて、”ニヤリ”……そんな感じでしょうか。とはいえやはり魅せられるのはヴォーカルそのものの力。シルク・タッチの美しくなめらかに滑る声で、天衣無縫絶妙に決まるこぶし回しがすばらしい。コンセプトに凝るのもいいけど、本格派ながら愛らしくチャーミングな歌、それだけでもう何もいりません。

エレガントでドラマティックな”Locked Inside”、オーガニックな”Sir Greendown”、ロックンソウルな”Cold War”、クラシカルでミステリアスな”Say You’ll Go”、フォーキッシュな”57821″……サイケデリックな頭で、エクセントリックな音楽性に、ソウルフルな歌が決まっています。

このままでもいいんですけどね。もうちょっとフツーにつくってくれていたら、と、未練残す出来映え。欲が深すぎる、未だ若いんだからともいえますが、つくれるときにつくらないと。大天使だって、堕ちたわけですから。

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