The Suburbs / Arcade Fire

Summer Holiday Special : Penguin’s Album Reviews

17 The Suburbs / Arcade Fire (2010)

要注意! へんなバンドですね。初めてふれたときなど、ニール・ヤングが若づくりしてふざけているのかと思ったものです。お、ジョ二・ミッチェルも絡んでいるぞ、とまで……。しかし、フロントラインのウィンも語っていますから、「デペッシュ・モードとニール・ヤングの交わったものさ」と。当たらずとも遠からず。

ギョーカイ人ノーマークの中、あろうことかアルバム賞を奪っちゃって唖然呆然陶然とさせられたグラミー賞式典のパフォーマンスも、一瞬外しちゃったかなと思わせるものでしたが、ふりかえれば案外悪くないわけで。一見変……ただしその実、作りもしっかりしているし、何よりも心のふれどころっていうか、おいしいところ、フックをちゃんとおさえているんですよね。それも、自然体で。

1980年4月14日、米ヒューストン生まれのウィン・バトラーが、カナダのモントリオールへ移り、後にその妻となる(’03年結婚)ハイチ系難民二世レジーヌ・シャサーニュ等と始め、やがて7人編成+αの大所帯にふくらんでいったアーケイド・ファイアー、’10年リリースの3rdスタジオ・アルバムが”The Suburbs”。英・米でNo.1にランク、音楽賞も獲り、世界的な出世作となっています。

時にレイヴで、時にハードコアで、時にサイケデリック。ベースとなる”美”メロディーに、アレンジメントの妙がプラスし、ふわり優しげなヴォーカルとあいまって、きわめつけのオルタナティヴなポップ・ロックがくりひろげられます。いかなるときもたとえばベースがしっかりうねっているとか、飽きさせないようにつくられているため、ダダダダダダダダーーーッとかけぬけるようなリズムの嵐を迎えても、単調一色退屈なものにはなりません。いくえにも”織り”重なった音の塊がドトーの如く押し寄せてきます。初めのうちはわからなくても、くりかえし聴くうちにだんだんそれを思い知るのがまた良し。きっちりとしていそうで、していない、すーだらぶりもたまりません。酒のみがぐだぐだくだをまいているうちに、つぶれそうになって、でもまたしゃきっとするみたいな。ほかにはない、寄せてはかえす波の如き流れ……それが快し。オーソドックスなポピュラー然としたしらべの後にいきなりのンクチャカ、ンクチャカ、ンクチャカってなめてんのか、コラッ! というように、笑いをとろうとしているのかもってところもあり。そのへんは、正に”生”の場数踏んでつちかわれた、インディーズ系アクトならではのもの。狙うにはそれなりに力がないとできませんからね。パロディーなんか、とくに。

猶、コンセプトとしてロック”幻想田園叙情詩”とでもいうべきものになってもいます。ウィンが幼いころから温めてきたものだとか。そういえば、栄えある”モンティ・パイソン”のメンバーにして、”12 Monkeys “などで知られるSFファンタジー系の名監督&コメディアンのテリー・ギリアムが、バンドのマディソン・スクエア・ガーデンのライヴを撮ってもいましたっけ。

ともあれとにかく人情味のあふれるバンドといえるでしょう。ふざけているように見えたりもしますが、芯からじんわりと温もりのあるヒューマニティーが伝わってきます。彼らなら、おちょくられてもいいと思えるほどに……え!?

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