Summer Holiday Special : Penguin’s Album Reviews
15 The Stanley Clarke Band / Stanley Clarke (2010)
ジャズってもんはあれですよね、こうでなければいけません。なんてったって、ぺんぎんのくしゃみなんですから。
「いいか、ここでスタンがプラペレポロプラペレポロプラペレポロと来てから、エクスタシーでいつものようにプカロポカロペカロパンラアアアウンといななくからな。となったら、ドラム、お前の番ダ! ドゥダドゥダドゥダと合わせていってさ、ドゥラドゥラドゥラドゥラドゥラララララアンとぶっ飛ばしちゃってくれ。おまえさんのダブル・キックはマジシビレルぜ。で、ヒロ~ミィ。そんなわけで皆してはしゃいじゃうからさ。ピアノにバトンがまわったらゆったりおさえてね。じゃないと、息つげなくて、皆、死んじゃうし……じゃあ、あ、ちょっとまだだめだってば!!!」
今回は司令の共同プロデューサーにまわった前作で共演の盟友レニー・ホワイトがレコーディング中にそう言ったかどうかはわかりません。しかし、さぞかしそんな楽しげなムードの中でセッションしたんだろうな、と思わせてくれます。
1951年6月30日、フィラデルフィア生まれのジャズ=フュージョン界の重鎮的ベーシストにして、名うてのTV&映画音楽作曲家という顔もあわせもつスタンリー・クラークが、現在我が国随一のジャズ・ピアニストHiromiをフィーチャーしてつくった、’10年リリースのグラミー賞獲得アルバム”THE STANLEY CLARKE BAND”。Hiromiとバークリーで共に学んだという、ウクライナ生まれのイスラエル育ち、エレクトリック・キーボード&シンセサイザーのルスラン・シロタ、そして”マシンガン”プレイのドラマー、ロナルド・ブルナーJr.らとかたちづくられるそのパフォーマンスは、正に”クロスオーヴァー”ミュージックの極みといえるでしょう。アコースティックで、エレクトリックで、エレクトロニックで。烈しくて、温かくて、麗しくて。プログレッシヴで、ヘヴィで、ファンキーで、スタイリッシュなジャズ・ロックが高らかに華やかに舞います。
たとえばその1曲、シロタがつくった”Soldier”。はてしない地平線のかなたへ向かって歩むかのように、おおらかにゆったり始まったかと思っていたら、突然嵐の如く荒れ狂い始め、ピークでエモーショナルに”ロック”な音が弾け跳ぶ、というエクセントリックさがたまりません。スタンがその名を世に轟かせたリターン・トゥ・フォーエヴァーの頃の曲”No Mystery”も、新たなる命の炎が点されたように蘇っていますし。Hiromi作の”Labyrinth”もまた、息もつかせぬほどめくるめくタッチにもかかわらず、すがすがしいピアノが、穏やかにたゆたうベースと絡み、えもいわれぬ美しさを醸し出しています。変幻自在で、天真爛漫……凄みあり。
ギター、サクソフォン、ヴォーカル等のゲストも交え、流れそのものはジャズのそれながら、振り幅の広い7色のワンダーランド。いくぞ! と目くばせされたらもう止められません。インタープレイがジャズの醍醐味であることを想い知らされるでしょう。そのきらびやかにたゆたうピアノ、激情的なリズムを刻むドラム、そして何よりもエレガントなベース、それぞれの和が、幻想的な音世界を生み出しています。ダイナミックで、ドラマティック。秘めておいた熱い想いがほとばしり、とめどなくどこまでも広がっていくかのように。
