Summer Holiday Special : Penguin’s Album Reviews
13 The Golden Thread / Stellamara (2009)
目を瞑り、じっと耳を澄ましていると、なじみはないのに、なぜかなつかしい異次元風景が蜃気楼の如く浮かんできます。
“Prituri Se Planinata”……
ブルガリアの伝承曲をステラマラがとりあげたものです。
ひところは、1日の始まりとかに1回、さらにもう1回、そしてまた1回とくりかえし、3回くらいエンドレスで聴いたりしていました。
そもそもはブルガリアン・ヴォイスで知られる様な女声合唱曲と思われますが、時にはちょっと煩く感じたりもする大合唱で聴かされるより、ソニャ独りのそれのほうが、ずっとすんなり心に染み入ってきます。
ラテン語で”星”を表す”Stella”、ガリシア語で”海”を表す”Mara”、合わせて”海の星”Stellamara。セルビアとハンガリーの血をひく妖艶声の不思議美女シンガー、ソニャ・ドラクリッチを核とするサンフランシスコのアラブ/バルカン/東欧系音楽団ですね。1997年、アルバム”Star Of The Sea”でデビュー。2004年の”The Seven Valley”を経て、’09年の夏にリリースされた通算3作目となるアルバムがこの”The Golden Thread”でした。
ウード等民俗弦楽器プレイヤーのゲイリー・ヘゲドゥシュを始め、5弦チェロ、クラリネット、ダラブッカ等民俗太鼓類でかためられた5人編成のバンドに、リラ等インド~中東古典音楽系のクレタ島在住ミュージシャンで、ラビリンス・ミュージック・ワークショップを営むロス・デイリーとその愛弟子ケリー・トーマ等のゲストを迎え、彩り豊かにつくられています。
ちなみにそのアルバム・タイトル”金の糸”については……ソニャがジャケットに記したものによると、ギリシャ神話をその出典とする、英雄テーセウスがクレーテー(クレタ)島王ミーノースの愛娘で許嫁となるアリアドネーにもらった黄金の糸玉のことだとか。牛頭の怪物ミノタウロスを退治し、迷宮(ラビュリントス)を脱出するときに役立ったという。
つまり、ズバリ迷宮的音楽? それともそこから外へ飛び出し、命を救う道すじを見つける光となるもの??? いずにしろ、ゲスト・ミュージシャンに絡むネーミングではありそうです。彼らなしではつくりえなかったと。
ともあれそんなわけで、アラブ~ヨーロッパの伝承系音楽を基に、中世古楽的要素もとりいれてかたちづくられた、正に今の世のGypsy風音楽とでもいうべきものが耳を楽しませてくれます。ブルガリアの上記曲を始め、トルコの”Aman Doktor”、”Yemen Türküsü”、”Odam Kireç”、さらにハンガリーの”Miskoltc”、そしてクロアチアの伝統詞にオリジナルのメロディーをつけてつくられた”Lado”……そのほかのオリジナル曲も含め、妖かしの魔境世界周遊の旅。幻想・懐古の桃源にどっぷりつかれます。
