Summer Holiday Special : Penguin’s Album Reviews
9 19 / Adele (2008)
“Hometown Glory”……アクシデントからの復帰後、初めてとなるiTunes Festivalのライヴ・パフォーマンスで、オープニングにその凛とした歌いっぷりを示してくれた時、心の底からほっとしたのを覚えています。
今や時の人といえるでしょう。1988年5月5日、英国北ロンドン・トッテナム生まれの南ロンドン・ウェスト・ノーウッド育ち、グラミー新人賞に輝くシンガー・ソングライター、アデル。18歳のころから19歳に至る間にレコーディングされたこのデビュー・アルバムがリリースされたのは、2008年初頭のことでした。
涙腺衝く歌、ですね。泣いているのに、強い声。たおやかで、しなやかで、あでやかな。声そのものがスモーキーなソプラノサックスのようにゆらめいて。ハイトーンのハスキー・ヴォイスに魅せられます。
それだけで愛されるのに。
生まれついてのスタイリッシュなヴォーカル・センス。ジャズのそれをもとりいれたフリーフォームのソウルフルな歌い回しにほんろうされます。自然体で、心の襞にふれまくるエモーショナルな歌。ティーンズ・ギャル(という言い回しがこれほど似つかわしくない人もいませんが)とはとても思えない落ちつきあり。
詞もごく日常的、オンナのコらしく、愛・恋の歌がほとんどですが、夢心地のものにあらず。風が吹き荒れたかもしれない生いたちによるものなのか、情はあれどもリアリズムを感じさせられ、共感呼ぶものとなっています。
そして、胸の奥、ど真ん中をストレートに襲うメロディー。ありがちなようで、ありがちではない……。誰にでもうけいれられ、しかしアデルならではの幽玄美あるそれが、アコースティックなタッチで決められています。ピアノ、そしてギターを始め、ハモンド・オルガン、ワーリッツァー、チェレスタ、グロッケンシュピール、ストリングスなどで彩どられ。
らしからぬ曲などありません。一つたりとも。
“Crazy For You”、”Melt My Heart To Stone”、”Make You Feel My Love”、いずれ劣らずすべて想い出に残るものばかり。ではありますが、中でもとりわけ2ndシングルとしてリリース、世界的なブレイクアウト曲にもなった”Chasing Pavements”は、惑いながらも我が道を歩むその想いがつまった珠玉作といえるでしょう。自ら育まれたふるさとを想ってつくった1stシングルの”Hometown Glory”と共に。
いつの間にやら心の中に棲みつき、暮らしのなかで溜まっていった澱みのようなものを清らかにしてくれる歌。ですが、心を盗まれないよう、御注意を。
