Summer Holiday Special : Penguin’s Album Reviews
8 Corinne Bailey Rae / Corinne Bailey Rae (2006)
“Like A Star”にふれたせつな恋に落ちてしまいました……離れがたいその声に。
1979年2月26日、英国人の母とカリブ海出身の父の血を引く、英リーズ生まれのシンガー・ソングライター、コリーヌ・ベイリー・レイが、表舞台に姿を現すのは6年程前のこと。デビュー・シングル”Like A Star”が英国内でスマッシュ・ヒット、翌年続く”Put Your Records On” がビッグ・ヒットし、スポットライトが当たりました。
そんなヒット曲を追い風として、2006年にリリースされたのがこのデビュー・アルバム。そして、これが欧・米でそれぞれミリオンセラー、さまざまな音楽賞候補にもなって、ブレイクアウトしています。ポップ、ソウル、ジャズといずれにもからむ音楽性ゆえに、正にブライテスト・ホープそのものでした。’07年、1曲コラボレイションを果たしたハービー・ハンコックによるジョ二・ミッチェルのトリビュート・アルバム”River : The Joni Letters”がグラミー賞をかちとったのもその顕われといえるでしょう。
きらびやかに輝く陽の光、と共に、深い翠を感じさせられる歌。それはまるでよく晴れわたった夏の日の昼さがり、海の真只中をたゆたいながら、爽やかなそよ風をうけているような、そんな心地良さにも通じるものがあります。
カリブなフィーリング……体の内に秘められたそれがにじみ出ているのかもしれません。
愛らしいというよりも、甘ったるいといったほうがいい声ですが、媚びめいたものが感じられないため、快くうけとめられます。声はかわいらしいのに、妙にオトナのオンナを感じさせられるという。そのうえあたかもすぐ隣で弾き語りをしてくれているようなインティメイトなムード(ただし、セクシャルな感じにあらず)で。
日常的な愛、夢、生、そのほかもろもろ自らをめぐるものについて描かれた詞が、すがすがしく、時にけだるく、空を舞います。ジャズふうなつくりとフォーキッシュなタッチが交わったクールなポップ・ソウルにのっかって。
聴くほどにその蠱惑的な歌でかたちづくられる不思議な音世界にぐいぐい惹かれていきます。もしかしたら”Heaven”ってこんな感じなのかな、とふと思わされ……。
猶、そのあっけらかんとした佇まいは、’08年、本作品で吹いてもいたサクソフォニストの夫、ジェイソン・レイの死に遭い、変わっていくことになります。さらに芯の強い深みあるものへと。
