The Melody At Night, With You / Keith Jarrett

Summer Holiday Special : Penguin’s Album Reviews

1 The Melody At Night, With You / Keith Jarrett (1999)

「ジャズ・ピアノはソロがいい」と言う人、けっこういますよね。そもそもはコンボで演るものですが、ピアノだけはたしかにソロもわるくない、と思います。

そういったソロ・ワークが多かったのは、アート・テイタム。なんせ、400曲以上レコーディングしたそうですから。しかし、ジャズ・ピアノ・ソロといわれてすぐ頭に浮かぶのはやはりキース・ジャレットじゃないでしょうか。1971年に初のピアノ・ソロ・アルバム”Facing You”を出してからというもの、’75年の珠玉作”The Köln Concert”、さらにその翌年のLP10枚組の大作”Sun Bear Concerts”等々、傑作を発表し、ソロ・ピアノ・ブームをリード。ハープシコードも含む独奏作は、マルチ・プレイ作も含め26作、ピアノのみに限っても18作という作品数は、ほかのピアニストたちを圧倒的に凌ぎます。もちろんそのコンサートも未だ語り継がれるもの多し。あまりにもきわだってしまったために厭けがさしたのか、本人自ら「ソロはもうやらない」とまで言わしめたほどでした。ただしその発言は以後、撤回されていますが。「アーティストはその時々の気分しだいでなんでも自由にやればいい」とうそぶいて。

そんな彼が、’99年に我が国でコンサートを行ないました。’97年あたりから慢性疲労症候群のため、ちゃんとした音楽的活動が為しえなくなっていたピアニストのうれしいカムバック。復帰後、初のソロ・コンサートでした。とはいえその出来映えたるやとても病み上りとは思えない程力強く、スリリングなものだったのです。’96年の東京公演時は付きそいなしではいられず。背中の激痛で一時は「ピアノの前にすわることすらかなわなかった」名匠の完全な復活。

ついで、タイムリーに復帰第1作となるこのアルバム”The Melody At Night, With You”がリリースされました。’98年、ニュー・ジャージーのケイヴライト・スタジオでレコーディングされた、久しぶりとなるソロ・ピアノ作。しかも、8曲のジャズ・スタンダード、2曲のトラディショナル、ささやかなインプロヴィゼイションという、彼らしからぬソロによる古典中心作でした。ガーシュイン・ブラザーズの”Someone To Watch Over Me”、デューク・エリントン&ポール・フランシス・ウェブスターの”I Got It Bad (And That Ain’t Good)”、ジェローム・カーン&オスカー・ハマースタインの”Don’t Ever Leave Me”などおなじみの佳曲群に加え、彼自身編曲をした”Shenandoah”などの古き伝承曲が新たなる命を与えられ、しっとりとつづられます。古典曲は彼自身の心のふるさとの想い出。内へ、内へ……と向かいながら紡がれるメロディーが心の襞をふるわします。哀しいくらいうるわしいタッチは、凄まじい病いとの闘いから来る癒し?

“I Loves You, Porgy”のせつない優しさにふれ、万感胸に迫ります。

惜しくも逸しましたが、”I Got It Bad”でグラミー賞候補にもなりました。ちなみにこのアルバム、彼のカムバックの為療養を献身的に支えたという、二番目の妻ローズ・アンに捧げられています (2010年、30年の結婚暮らしに終止符が打たれてしまったのは言わずもがな、ですか?……ですね)。

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